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御獄(ウタキ)のことをヤマともいい、ヤマを抱き守る女を神司(カンツカサ)ともいう。口伝(くちうつし)で新米神女を誕生させる儀式を、ある地域では獄抱(ヤマダキ)とよんでいる。
物語は、明治28年、主人公絹江と夫の耕三が絹江の故郷へ帰省するところからはじまる。
ひと月に一度、沖合に停泊する汽船が唯一の交通手段、点在する離島のひとつ、小島が絹江の故郷であった。ところが台風でそのひと月の交通手段、戻るはずの汽船が来ず、島でもうひと月を過ごすことになった若い夫婦へ次々と試練が襲いかかる。
干ばつがひどく農作物は育たず、食べるものがない。雨がほしい。雨を乞う人々。それを神へととりなす祈りをする島の最高神女が亡くなってしまう。御獄が空くことを神は忌み嫌うという。すぐにも血統祭司の引継ぎへの準備が始まるなか、絹江の名前も候補者の中にあった。
絹江は神に選ばれた女だという。
同胞の過酷な実情を知った絹江に、妻の身重を知った医者である耕三に、逃れるのか、捉えられるのか、それとも歩み出でるのか。
それぞれの神が、二人に、島の人々に、生きること、生き抜くことを問いかけていく歴史小説。